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2011年4月17日日曜日

狼と香辛料 1 1/3



狼と香辛料 1 1/3


狼と一張羅






いつからかこの村では
豊かに実った麦の穂が風になびくのを
『狼が走る』と言うようになった。

風で倒れた麦穂は
『狼に踏まれた』
不作のときは
『狼に食われた』

はじめは何も無かった。
あったのはぬくもりだけ。

そして
約束が結ばれた。



出会いと別れが繰り返され
やがて人間は
人間の力だけで豊かを掴み取るようになった。
もう約束を
律儀に守る必要は無いのかもしれない。






いい加減、田舎道も飽きてきたな。
なぁ?



・・・



はぁ。






行商人?



半日ほどかけて東に行くと
山の中に小さな村があるんですよ。
そこへ塩を売りにいった帰りです。



はぁ。
全部塩か?



いいえ。
これは毛皮です。



うん・・・



ぁ・・・
あぁ、ただの麦束ですよ。
暑さにも寒さにも強いやつでしてね。

何事ですか?
いつになく物々しいご様子ですが。



実は西の村で異教徒の祭りが開かれるらしいのだ。



異教徒?



ぅん。
唯一絶対の神を信じない
まったくけしからん奴らだ。
教皇様も昔のように
もっとお力を振るわれれば良いと思うのだが
どうもままならないらしい。
おそらく異教徒が卑怯な手を使っているのだろう。






異教徒・・・か。
あのパスロエの連中がね。






やぁ、ロレンスさん。
いや、本当に驚いた。
新しいやり方でこれほど豊作になるとは。



伯爵様様だ。



狼は頼りにならなかったからなぁ。



おっと
悪口を言うと恐いぞ。
一応神様だ。



ははははは。



おぉ!
ロレンスさん!



どうも。
すっかりご無沙汰しまして。



いやいや。
いい時に来ましたねぇ。
明日から収穫祭ですよ。



明日から?
てっきりもう始まっているのかと思いましたよ。



ははははは。



実はここだけ一足先に。
どうです?



おいおい。
ロレンスさんを俺たちなんかと一緒にすんなよ。



こりゃまた失礼をば。



ははははは。



ところでクロエは何処にいるかわかりますか?



クロエ?



ぁ?



そうか。
そういう事か・・・。



いや商売上の後輩ですから。
たまには酒でもって事です。
取引もかねてね。



そりゃまずいなぁ。



え?



ここはあそこが収穫のどん尻ですから
祭りでホロになるのは
あいつかも?






ほらそこだ!
そこに狼が横たわっている!



最後に狼をつかむのは
誰だ?
誰だ?
誰だ?!



クロエ!



ぁ?



ロレンス!
来てたんだ!



余所見してるとホロが逃げるぞ!



ぇ?

ぁ・・・



最後の一束だ。



欲張りが麦を隠してないか?



よく確かめろ!
ホロが逃げるぞ!



狼を掴んだのは誰だ?
誰だ?



クロエだ!
クロエだ!
クロエだ!



はぁ・・・






ドサ
キィ



ぁ?



おぉ!!



ホォゥ!



狼ホロが現れた!



捕まえろ!



そっちへ行った!



ロレンスさん
捕まえてくれ!



ぁ?



え?!



久しぶりなんだから
今夜おごってね。



ぇ?



はぁ。
何が今夜おごって?だ。
一週間、その中だろ?






おかげさまで
新たな取引先も開拓できまして。



ぁ・・・
クロエ
頑張っているようですね。
村の値段交渉人として。



えぇ。
本当によくやってくれてます。
どんどん変わりますよ。
この村は。



ほぉ。
トレニー銀貨ですか。
この辺ではまず見かけなかったが。



ふふふ。
もう錆びて黒ずんだ
リュート銀貨とはおさらばですよ。



じきにパッツェあたりの大きな町とも
肩を並べそうですね。



いやぁ、まだまだ。
しかし何もかも新しいご領主様
エーレンドット伯爵様のおかげですわい。
もう狼に祈りを捧げる必要も無い。

人間様の力で
日照や嵐にも負けないようになって。
いまにトレニー銀貨どころか
リュミオーネ金貨で一杯にしたいもんですな。



その節はどうぞ
変わらぬご愛顧を。



ふふふ。






ん・・・

よそ者は邪魔にされるだけだしな。



ピシ



それにしても
リュミオーネ金貨でいっぱいは
言いすぎだろ。



さて。
寝るか。

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