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2011年6月30日木曜日

狼と桃のはちみつ漬け 1/5



狼と桃のはちみつ漬け 1/5






その時
神はのたまいました。






あぁ!
いい風じゃ!

ぉ?
ぬしぬし



ぁ?



上等な小麦をふんだんに使った
パンの香りがする!
久しぶりじゃのぉ。



うっふん。
たいして大きくない町だが
まずいパンと酒だけの
味気ない日々からは解放されそうだな。

近くに山や森があるから
肥えた土が流されて来て
作物がよく実るんだろう。

それが良い値で売れれば良い生活が出来る。
良い生活が出来れば更に良い作物を実らせる事が・・・



おぉ!
ぬしぬしぬし!



今度はなんだ?



あぁ!
塩と香辛料がまぶされた
川魚を焼く香ばしい匂いじゃ!
あぁ!
もうたまらぬ。



これだけいろんな匂いが混ざった中で
よく嗅ぎ分けられるな。
おまえ・・・



ぉ!
ぬしぬしぬしぬし!



おい
落ち着けって。



兎じゃ!
なんと美味そうな!
ぉ!
向こうにはナマズ!
こっちからは焼き栗に
腸詰の香りがそこはかとなく・・・



道が込んでいて俺は余所見出来ないが・・・
は。
お前のおかげでこの町に何が流通してるか
だいたいわかりそうだな。

ぁ!
おい!
なんだなんだ。
いきなり・・・



あ・・・あ・・・
あれは!あれは・・・
あれじゃな。



ん?
どれがなんだ?



ほれ
あそこで上半身裸の恰幅の良い男が
寒い冬のさなかだと言うのに
汗だくになって焼いておるあれ!
いちいち油を塗っては
くるくると回しながら焼いておる
串刺しのおおきなあれじゃ!



ぁ?
あぁ!
豚の丸焼きか。
かなりの人だかりが出来てるな。



そりゃそうじゃろう。
ここに漂ってくる香りだけでも
とろけそうなくらいじゃぁ❤
あぁ・・・
一度でいいからわっちもあんな物を食べてみたい❤



ちょっと待て。



ん?



俺の記憶が確かならば
お前には以前
子豚の丸焼きを進呈したはずなんだがなぁ。



むぅ。



顔中油まみれになって
丸ごと一人で食っただろうお前!
忘れたとは言わせないぞ!



あぁ・・・



あぁって!



あれはまさに子豚だったでは無いか。
あんな物では今のわっちは満たされぬ。



ぁ・・・いや
さすがに大人の豚一頭は無理だろ。

ぁ・・・
まさかお前
狼の姿を晒して食おうっていうのか?



たわけ。
そんな訳あるはず無かろう。



じゃぁなんでだ?



考えよ。



ぁ?
あぁ・・・
肉の量では無さそうだが・・・
あぁ?



わからんのかや?
はぁ。
商人とは相手の望むものを把握してこその
ものではないのかや?



ぁ、待て。
まだあきらめたとは言ってないだろ?
どうどう!



ヒヒーン



その分ではとてもわかりそうに無いかの。



いやいや
俺にも行商人としてのそれなりの自負がある。
豚だろ?
豚料理・・・
子豚では満足できないもの・・・



よぉく考えてみよ。
いつものわっちを胸に浮かべれば
おのずと答えが・・・



あぁ!



わかったかや?



わかった!
豚の皮が食べたり無かったんだろう?!



ぁ?
皮?



確かにあの時の子豚はちょっと少なかったよな。
よく焼いた豚の皮といったら
いい具合にパリパリで・・・



ほぉ・・・



肉と一緒に食べると
口の中にじわりと油が広がって・・・



ほぉ・・・



塩を多めに振ると尚美味くて!



ほぉ・・・



正解だろ!



ぁ?うむ。
何を的外れな事を言っておる!



ぇ?
違ったのか?



全然違う!
じゃが
それはそれで美味そうじゃな。



豚の丸焼きを頼まない限り食えないものだ。
まぁ
貴族様は皮だけ食べて
肉は捨てるらしいが。



はぁ・・・
それほど美味いのかや。
はぁ・・・



うっふふ。
それで結局なんだったんだ?
子豚じゃ満足できない物って。



む?



豚の皮でも無いとすると
腸詰か?
それともあれか?
俺はあまり好きではないんだが
茹でた肝とか・・・



たわけ!



ぇ?



ぬしは本当にたわけじゃな!



飯の話によだれを垂らしてる奴に
言われたくないが。



ぇ?
ぁ?
むぅ・・・



あイテテテテ
なんでつねるんだよ!



いくらわっちでも
腹そのものはそんなに大きくありんせん。
子豚で十分じゃ。
問題はそこではありんせん。

あの時は
ついつい一人で
一気に食い尽くしてしまったからのぉ。
今度は二人・・・



そうか!
なんだそう言う事か!



やっとわかったかや?



あぁ。やっとわかった。
お前
こう言いたかったんだろう?
今度はいろんな味付けでじっくり楽しみたい!



ぇ?



やぁ
気づかなくてすまん。
そりゃそうだよなぁ。
いくら何でも同じ味で丸ごとと言うのは
さすがに飽きるよな。



ぬし
本気で言っておるのかや?



そんな疑うなよ。
この町ではお前を飽きさせずに
満腹にしてやるから。



むぅ。
ま、それならそれでよい。
それに期待しておこう。



何だよ。
まだ不満そうな顔して。
信じて無いのか?



そういう事ではありんせん。



ようし!
見てろ!
この町に居る間に
お前を大満足な顔にしてやるからな!



はぁ・・・



じゃ
まずは宿探しだ!

これだけの町なら
贅沢言わなきゃ宿はすぐ見つかるだろう。






ぇ?
部屋が無い?



えぇ。
ここ暫く人の出入りが激しくて。
すみませんねぇ。



わかりました。
では他をあたってみます。



いやぁ・・・
よそさんも同じだと思いますよ。



ぇ?



お気の毒ですが
どこの宿屋もご宿泊は無理でしょう。
組合もこういう時くらいは
人数制限の規則を
緩めてくれるといいんですが・・・



祭りか何かあるのですか?
どうしてこの時期にどこもそんな満杯に?



まぁいろいろとゴタゴタがありましてね。
詳しい理由はこの町の恥ですし
話すと長くなるので勘弁してください。






ふわぁぁ。
4件目はもう主の顔を見た瞬間
駄目とわかったの。



あぁ。
どこもかしこも殺気立っている。
5件目は行くまでも無いだろう。

後は大きめの商会か教会をあたって
荷馬車を止めさせてもらう場所を借りるぐらいが
精一杯かもしれんなぁ。



広々としたベットはまたしても
お預けかや。



屋根のある場所が借りられれば
どうやら御の字だ。



最悪じゃ。
期待しておったものに
ことごとく肩透かしをくらっておる。



ん?



何でもありんせん。
ぬしは今夜の寝場所に思いを馳せておれ。



わかってるよ。
何としても野宿だけは避けたいからな。






しかし親方もよく
あんな奴の仕事を請けるもんだ!
俺たちの焼いたパンに
あんな物を乗せろだなんて!
馬鹿にしてやがるのだ!



そう言うなって。
破格の手間賃を出してくれる上に
最上級の小麦パンを
わんさと買ってくれるんだからな。

お前だってたまには
混じりっけ無しの小麦で
パンをこねたいだろ?



そりゃそうさ。
しかしなぁ・・・



オオム商会の若旦那は
まだまだ人手を増やしたいらしい。
今はとにかく景気がいいからな。
それが続いているうちに
儲けるだけ儲けるには
文句など言ってられんさ。



だが俺たちのパンは
そのままが一番美味いに決まってるんだ。
あんな物を乗せるのだけは
間違ってる!

大体値段が高すぎるだろ!
蜂蜜に漬け込んだだけで
なんだってあんなに値段が上がるんだよ。



ははははは。
お前
自分が食べられないのが悔しいんだろ。



馬鹿!
違うよ!
興味なんてねぇさ。
桃の蜂蜜漬けなんて。






桃の!



ぅ・・・



何か久しぶりにわくわくする物を
わっちは思い出してしまった。



ほ・・・
ほぉ・・・
それは良かったなぁ。



うむ。
真によかった。
それは大そう値が張るらしいが
払えない値段ではないという代物じゃ。
トレニー銀貨で10枚か?
いや
20枚かの?



い・・・いやぁ・・・
こ・・・今晩は冷えそうだな。



そうじゃな。
にもかかわらず
わっちらには宿が無いかもしれぬ。
となれば・・・



ぅ・・・

墓穴を掘ったか・・・



わっちはもう何も言わぬ。
しがない旅の修道女じゃからの。



そう来るか。



ん?
他にどういける?



はぁ。
仕方ない。
薬屋で身体が温まりそうなもの
買っておくか。



うむ。
良いのではないかや。



パサパサパサ



こらこら
尻尾が喜びすぎだ。
見られたらどうする?



うふふ。
尻尾は嘘がつけぬからの。
寒いからあったまりんす。
ふむ。



お・・・おい、
こんな人ごみの中で。



構わぬ。構わぬ。
ふぅ・・・






ガラガラ



いらっしゃい。



ほぉ!
並んでおる!
ほれ
あの奥の棚にさん然と輝いて並んでおるぞ!
ぬし!



落ち着け。
喜ぶのは手に入れてからにしろって。



何をお探しで?



身体が温まるものが欲しくてね。
そうだなぁ。
生姜の蜂蜜漬けか・・・



あぁ生姜ね。
こちら一瓶に3個で10リュートです。
まいどあり。



あぁぁぁ
いや、あの・・・



他にも何か?



ぇ・・・ぁ・・・
その奥の棚にある桃の蜂蜜漬けを・・・



桃?
桃をお買い上げに?



あぁ・・・
はい・・・
その・・・



おやおやおや
これはお目が高い!
今年の桃はとっても甘い上に
実がしっかりとしてましてねぇ。



ほぉ。



蜂蜜もリューディンヒルド伯爵の
御料地の森で採れた一級の蜂蜜です!



ほぉ!
ほぉ!



もう買い手が何人も居ましてね
残るは3玉。
お求めになりますか?



おいくらですか?



1玉1リュミオーネ!



ぅわ!



トレニー銀貨にしますと
35枚ですね。



ぁ・・・
ぁ・・・
ぁ・・・






はぁ・・・



ん?
どうしたかや?



ぁ・・・
や・・・



そうかや。
なら早く乗ってくりゃれ。
ぬしの席は奥じゃろ?



あ・・・あぁ・・・

行くか。



うむ。



は!



ピシ



はぁ。



いくら何でも高すぎる。
1リュミオーネなんて・・・



いや・・・



ぁ?
どうしたのじゃ?



あと3玉なんてあっという間だぞ。
パンに乗せて焼こうなんていう
とんでもない奴がいるくらい
この町は景気が良いんだ。
すぐにでも引き返さないと・・・



おぬし?



景気が良い?



どうしたのじゃ?



ちょっと寄り道だ!

は!



ヒヒーン



おぉぉ・・
寄り道とは?



商会に行ってみる!



商会?



とにかく善は急げだ!
は!



急ぎすぎじゃ!
うぉぉぉっと。

ぬし!
商会とはあれかや?
通りすがりのパン職人たちが言っておった
オオム商会とやらかや?



そうだ!
物は金が無ければ売れはしない。
だとすれば
物が売れているところには
金が流れ込んでいる!
行ってみて損は無いはずだ!



しかしもう日暮れ時じゃ。
今から行って間に合うかや?



そんな事は行ってみて考えればいいさ!

は!

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