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2011年7月6日水曜日

狼と桃のはちみつ漬け 3/5



狼と桃のはちみつ漬け 3/5






ゥォーン
ゥォーン



何か久しぶりだな。
こういうのも。
ルアイ村までもうわずかか。

ふ。
一人きりの御者台も
たまには悪くない。






ぅん。
うんうん。
うん。
思いのほか美味いのぉ。

う~ん。
美味いが・・・
それだけじゃ。






ご苦労さん。
あんた初めてか?



はい。
日が暮れる前までは
まさか今ここに居るとは
思ってもみなかったくらいで・・・



ははは。
ほらよ。
これが賃金代わりの木札だ。
持って帰って換金しな。
朝までにまだ6回は往復できるぞ。
どんどん持ってこい!



はい。



ヒヒーン



そう嫌そうな顔をするなよ。
相棒。
何日も続けるつもりはないから
我慢してくれ。






あぁぁぁ。
いつまで待たせるのじゃ?
たわけが。






所どころ
かがり火が炊かれた道を
俺は何度も行き来した。
特に険しいところも無い道を
荷馬車で行き来するだけで
1回の運び賃がトレニー銀貨1枚。

翌日の夕方まで頑張れば
15回は資材が運べる。
少し無理をすれば2日で目的の額が稼げる。
そう踏んだのが
それがいかに甘い考えだったのかを
すぐに思い知らされた。



私のほうが先に走ってたのだ!

ふざけるな!
俺のほうが先だ!
とっとと馬車をどけろ!

それがどうした!

神の御名の元に決闘を申し込みます!



大盤振る舞いの賃金を求めて
山のように人が群がってきたため
数々の問題が生まれていたのだ。

商人同士であれば周知である暗黙の了解も
素人のにわか商人には通用しない。
小川にかけられた貧弱な橋では
渡る順番をめぐって喧嘩がおき
混乱を招いていた。

途中の森に沿って進む場所では
荷を運びながら食べる食料の匂いにつられたのだろう。
狼や野犬の数が
時を追うごとに増えていった。






コンコンコン



誰じゃ?



夜分にすみません。
窓から外を眺めておいでになるのを
お見かけしたものですから。



あるじ様かや。
入られよ。



長旅の疲れで寝付けずに居らっしゃるではと思いまして
これをお持ちしました。



クンクンクン



この匂いは!



桃の蜂蜜漬けです。
疲れが取れますのよ。



やはりそうかや!
ほう・・・
よいツヤをしておる。



どうぞお召し上がりください。
ご遠慮なく。



ぅ・・・いや・・・



どうなさいました?
桃はお嫌いですか?
それとも蜂蜜が苦手?



いやいや・・・
せっかくの好意ではありんすが
わっちの一族には古くからのしきたりがあっての。



しきたり?



ぁ・・・うむ・・・
月が傾き始めたら
日が昇るまで何も口にしてはならぬのじゃ。



まぁ・・・
それは残念。
でも仕方ありませんね。



本当に残念じゃが・・・



薬屋さんでこれを買おうとして
結局やめて帰った行商人のご夫婦が居たと聞いて・・・



ぇ?



ひょっとしてあなたと
あのお連れの方かと思ったのですが・・・



いや
人違いじゃろう。
そもそもわっちらは夫婦ではありんせん。



まぁ!
そうでしたか!
ぁ・・・でも・・・
いずれはそんなふうにと
お考えなのでしょう?

ロレンスさんはとても良い商人ですもの。
旦那様にして絶対に損は無いわ。



ふふふ。
本人に言ってやってくりゃれ。
まぁ仮にそれがお世辞でなくとも
わっちは添い遂げようなどとは思っておらぬ。



そうですか。
ぁ・・・
ではこちらはお下げいたします。
どうぞごゆっくり。



コツコツコツ

バタン



なんなんじゃ?
あれは?






たっぷり休め。
相棒。

俺も御者台に座っているだけで良いと
たかをくくっていたが
ちょっと甘かった。



ロレンスさん。



ぁ・・・
あぁ・・・
やぁ
オオム商会の・・・



ジルバンです。
さすがにお疲れのご様子ですな。



あなたまで資材運びを?



えぇ。
不器用な熊の手も借りたいってね。
でも手当ては無しで賃金は据え置き。
まぁ気分転換と割り切っています。
はははは。



まだまだ元気ですね。



2往復目ですから。



ヒヒーン



おぉ。
お前も水飲んでおけ。

あまり誰にもかれに言うわけじゃないんですがね。



なんです?




実はもっと見入りのいい仕事があるんですよ。



これよりも賃金の良い仕事ですか?



仕事と言うか・・・
ある種の賭けです。
クレア様が特別な相手にしか斡旋しないものですが
これの何倍も稼げます。



賭け・・・ですか。



実は
もう亡くなられましたが
クレア様の旦那様も挑戦したのだそうで。
それに勝って以来たちまち商売運が上昇して
うちの商会を大きく成長させたって
もっぱらの評判です。



ほぉ。
それはちょっとそそられますね。



あなたなら多分いけると思いますよ。
商人としての知恵に自信があれば
是非一度クレア様のところへ。



心に留めておきます。
しかしまぁ
よほどの事が無い限り
私は賭けには手を出しません。
商売のための運が逃げてしまうと嫌なので。



ふ。
なるほど。



ではお先に。






こんな何気ないやり取りも
下手をすればじわじわと疲労を蓄積させる。
道が険しくなくとも
人が多ければそれだけ消耗するものだ。

それでも俺が我慢して何往復もできたのは
この仕事をやり遂げたあかつきに
待っているだろう情景を幾度も思い浮かべて
自分を鼓舞したからだった。

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